マイベスト家電
今週のお題「マイベスト家電」
靴擦れする革靴で歩くのをやめた。
かかとの部分に3キロ増量した体重を載せて闊歩するのが馬鹿らしい。
靴紐をキツく縛った新品のスニーカーの靴底に、もたつく不幸を張り付けて足を引きずりながらペタペタと知らない街に足跡をつけて歩く。
抜いた親知らずの左上のぽっかり空いた穴にすっかり愛着を持ってしまった。
舌で触って塞がっていないかマスクの下で確かめながらヘッドホンからアニソンが音漏れしていないかが急に不安になって音量の点々をを3つ下げた。
まだ見ぬ未来がどうなっていくのか楽しみで仕方ないのに歳を取ることは怖い。
自分の1番のお気に入りの服を着て玄関の鏡を見て今日も可愛いと自信満々で家を出るのに、ショーウィンドウや電車の窓に気合の入れた自分が映ると恥ずかしくて仕方ない。
女の子はみんな可愛いと思うのに無意識に点数をつけてしまう。僕も女の子に点数つけられて、たぶん満点ORそれに近い値だから 選ばれているのだろうけど。
気がおかしくなってしまいそうなほど誰かに恋がしたいのに、生温い日常に浸かっている自分がいる。
手を繋いだ瞬間から手を離してしまういつかのことを考える。
さいきん手をつないだらズボンを触るのやめてほしい、僕はここから消えないから。
新しい家電ものが出るたびにワクワクするのに、自分だけ古くなっていくような感覚。
誰かに共有したくてこんなことを書いたって、わかるよと得意げな顔されたら唾を吐いてしまう。
考えたって答えは出ないし、泣いたって仕方がないし、もがいたって伝わらないし、顔を作ることすら上手くできないし、なんだか全部に疲れているんだし。
もうほっといて、でもかまって。
ときにはぎゅっと抱きしめて、僕はおもちゃじゃないんだから。